小説『イオの末裔』のタイトルについて簡単に解説しておきます。
「末裔(まつえい)」は難しい言葉ですが、「子孫」というような意味です。この小説の場合、本当にイオの子孫だというのではなく、「イオのような人」という程度の比喩として使っています。なので、そんなに深く考えなくていいですね。
問題は「イオ」の方です。
これについては、「あとがき」にも書いたので、それを引用します。
「イオはギリシア神話に登場する女性です。アルゴス地方を流れるイナコス河の河神の娘で、最高神ゼウスに愛され、逢い引きしました。ゼウスの妻である女神ヘラはそれに腹を立て、ゼウスがイオと浮気できないように、イオを牝牛(めうし)に変え、百眼の巨人アルゴスに彼女の見張りをさせます。さらに、ヘラはイオが一カ所に落ち着けないように一匹の恐ろしい虻(あぶ)を送って彼女を追い立てました。仕方なく、イオは逃げました。ゼウスは彼女を哀れみ、ヘルメス神を送って巨人アルゴスを殺させました。しかし、虻だけはその後もイオを追い立て、イオは逃げ続けました。その途中、彼女はアドリア海を通りましたが、このためにアドリア海の一部がイオニア海と呼ばれるようになりました。また、黒海のあたりである海峡を渡りましたが、それからその海峡は「ボスボラス(牝牛の渡し)」と呼ばれるようになりました。こうして、イオはあちこちを逃げ回り、ついにエジプトにやって来ました。この頃になって、女神ヘラの怒りも収まり、イオはやっと人間の姿に戻されましたが、それから彼女はエジプトでイシス女神として崇拝されるようになった、とある伝説は語っています。」
ギリシア神話によれば、イオというのはだいたいこんな感じの女性です。つまり、物語の間中、ほとんど逃げ回っていた女性です。
このような女性の名前を小説のタイトルにしたのは、小説『イオの末裔』の主人公も「ただひたすら逃げる人」だからです。
ただ逃げるだけでいいのかというようなご意見もあるでしょうが、私は「逃げる」というのは大きな可能性を秘めた行動だと思っています。
ギリシア神話のイオも、一説では、最後はエジプトにたどり着いて、イシス女神なったとされているくらいですからね。
ちなみに、イシスは古代のある時期にエジプトで最高神とされた女神です。
2015年11月22日
小説『イオの末裔』のタイトルについて
posted by 草野 巧 at 11:47| Comment(0)
| イオの末裔
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